京都の大学院生

とあるしがない大学院生の戯れ言。映画のことを中心に、たまに日常で感じたことを書き留めていく。

裏天満の居酒屋のあと

 大阪の天満を散策していた時のことだ。
その時、私は匂い立つ熱気に釣られて、ついつい裏天満の居酒屋で一杯ひっかけてきたところであった。ほろ酔いの頭に、天満のネオンが心地よく映る。色めき立つ雑踏。客引きの声。それら全てを全方位から受け止めていると、自分は確かにここに存在しているのだと、私はいつも手応えを感じるのであった。
 路地裏を歩いていると、2人連れのカップルが向こうからやってくる。男のほうは、もう覚えていないのであるが、女の子のほうはとても端正な顔立ちをしていたのだった。女の子は突然男の方を振り向く。そしてケラケラ笑いながら両手を掲げてポーズを取った。どうやら、少し酔っているらしい。男はそれを笑いながら、スマートフォンを構えた。カメラモードに移行したのだ。女の容貌の美しさから、恐らくこの写真は、インスタグラムなどに投稿され、美しく妖しく加工されるに違いない、と私は直感した。反射的に、スマートフォンのカメラに映らないように、横の道にすぐさま方向転換した。背後で、シャッター音が鳴る。彼らの音が遠のいていく。
 私は、色々と先ほどの出来事を反芻した。女は美しかった。女の美しい世界に、私のような醜い人間が映ってはいけないのだ。私の行動は正しかった。良いことをしたのだ。そして、腹の底から淋しさが沸き起こってきた。まるでそれまで酒がその感情に蓋をしていたかのように、アルコールの抜けた意識に鮮明となって現在の自分の孤独が思い出されてくるのである。女は美しかった。女は女王で、同じように美しい仲間たちと一緒に、美しい人生を送っていくのだ。例え醜い人生と蔑まれようが、女の容姿に沿ってまた美しくなるであろう。そしてそれは、私が決して触れられない世界なのである。
 私はいつの間にか、天満の路地裏にある、コンドームの自動販売機の前に立ち尽くしていた。何だか私は、それがそこにあるのがとても面白く感じた。写真を撮ってTwitterに載せる。フォロワーの男から「サガミオリジナルを買え」とリプライが飛んでくる。
 「くそ。ヤリてえな。この野郎。」私は独り言を呟いて、また天満の路地裏へ戻っていった。